東京地方裁判所 昭和41年(ワ)2530号 判決
原告
新井康子
ほか四名
被告
松田伊勢次
ほか二名
第一 主文
一、被告らはそれぞれ
(一) 原告新井康子に対し金一、二三八、六〇〇円
(二) 原告玉置文子に対し金三八六、〇八〇円
およびこれらに対する昭和四一年四月三日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、原告新井康子、玉置文子のその余の請求ならびにその余の原告らの請求をすべて棄却する。
三、訴訟費用は原告康子の請求の部分については五分してその四を被告らの負担とし、その余を原告の負担とし原告文子の請求の部分については三分してその二を被告らの負担とし、その余を原告の負担とし、その余の原告らの請求については全部、各原告の負担とする。
四、この判決一項は仮に執行することができる。
第二 本訴請求
「一 被告らはそれぞれ
(一) 原告新井康子に対し、金一、四九八、六〇〇円
(二) 原告新井敬三に対し、金二〇〇、〇〇〇円
(三) 原告新井鞆音に対し、金二〇〇、〇〇〇円
(四) 原告玉置文子に対し、金五八六、〇八〇円
(五) 原告玉置久に対し、金二二六、四〇六円
および各右金員に対する本件訴状送達の翌日である昭和四一年四月三日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。」
との判決ならびに仮執行宣言。
第三争いない事実
一、本件傷害交通事故発生
とき、昭和四〇年九月二九日午前七時五〇分頃
ところ、武蔵野市吉祥寺北町一―一八―一先交差点附近
第一事故車、被告松田所有の自家用乗用車トヨペツトコロナ五、み六四九一号
右運転者、被告松田
第二事故車、被告会社保有の自家用乗用車、ニツサンセドリツク、練五そ三四五〇号
右運転者、被告会社員被告渡部
被害者、原告新井康子、同玉置文子(何れも道路右側歩行中)
態様、東西道路の西方から東進してきた第一事故車と、南北道路の南方から北進して本件交差点で右折東進しようとした第二事故車とが接触、さらに進行方向左斜前方に走行した第一事故車が対向右側歩行中の右原告らと衝突、ために右原告らは受傷した。
二、責任原因について
被告松田は第一事故車の運行供用者であり、被告会社は第二事故車の運行供用者ならびに被告渡部の使用者である。
三、被告松田の弁済
被告松田は左のとおり原告らに支払つている。
(一) 原告新井康子に対し、合計金四三七、九七〇円
1 付添看護費 一三七、九七〇円
事故日から同年一二月二一日退院するまで八四日間の付添費、うち当初一九日間は二名の付添婦の看護費をふくむものである。
2 治療費 二〇〇、〇〇〇円
3 その他 一〇〇、〇〇〇円
(二) 原告玉置文子に対し、合計金三三二、三九〇円
1 付添看護費 八二、三九〇円
事故日から同年一二月二三日退院するまでの期間のうち一一月三日までの六三日間の付添費である。
2 治療費 一五〇、〇〇〇円
3 その他 一〇〇、〇〇〇円
第四争点
一、原告らの主張
(一) 責任原因
本件事故は第一事故車運転の被告松田が交差点進入の際徐行を怠り、事故防止の措置に欠けた過失と、第二事故車運転の被告渡部が優先すべき直進車動向注視を怠り、漫然開始した右折不適当の過失とがあいまつて惹起せしめたもので、被告松田ならびに被告会社は運行供用者として、被告渡部は不法行為者として、それぞれ原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
(二) 損害の発生
1 原告新井康子
(1) 傷害の内容
胸腹部挫傷。内臓破裂(胃、小腸、腸間膜、後腹膜破裂、裂創)。頭部、顔面、右鼠蹊、会陰部擦過挫傷。左上腕骨骨折兼手指運動麻痺。右大腿、下腿挫滅裂創。
(2) 損害の数額
母鞆音付添のため家で使用した家政婦代 六〇、〇〇〇円
治療費 五三八、六〇〇円
欠席の遅れを取戻すための家庭教師代 一〇〇、〇〇〇円
慰藉料 一、〇〇〇、〇〇〇円
計 一、六九八、六〇〇円
2 原告新井敬三、同鞆音の慰藉料
原告康子の両親としての慰藉料各金二〇〇、〇〇〇円
3 原告玉置文子
(1) 傷害の内容
頭蓋内出血。頭部顔面挫創。右足挫創。右鎖骨、左橈骨、左脛骨骨折。腰腹部、両膝関節、下腿挫傷。
(2) 損害の数額
治療費 二三六、〇八〇円
慰藉料 五〇〇、〇〇〇円
計 七三六、〇八〇円
4 原告玉置久の損害
原告文子看護のための賃金減額分 二六、四〇六円
原告文子の夫としての慰藉料 二〇〇、〇〇〇円
二、被告松田の主張
被告松田の無責
本件事故は第二事故車運転の被告渡辺が一時停止の標識を無視していきなり交差点に進入して、優先権ある被告松田運転の第一事故車の右側に衝突してきたため、そのはずみで第一事故車は左よりに進行し、左前方に迫つた電柱を避けるのが精一ぱいで、かつ前方道路右側に駐車中のトラツクがあつたため、不可避的に原告らに接触するにいたつたもので、全く被告渡部の過失によるもので、被告松田に責任はない。
三、被告渡部、被告会社の主張
被告らの無責
本件事故はもつぱら原告らも言及する被告松田の過失によつて惹起せしめられたものであつて、被告渡部に運転上の過失はなく、原告らの受傷に何らの因果関係も存しないから被告らが責を負うべくもない。
すなわち被告渡部は交差点手前で警笛を鳴らした上一旦停止し、左側道路の見透しが悪いのでさらに二回警笛を吹鳴して車首を右寄りに向けながらそろそろと進行し、自動車の最突端ライトの部分が道路のすみから約一メートル八〇だけ突出した地点で一旦停止したところ、突然被告松田の第一事故車が疾走してき、第二事故車に回避のいとまを与える間もなく、かすめてあわてゝ左に大きくハンドルを切つたため原告らと衝突するにいたつたものである。
第五争点に対する判断
一、責任原因
本件事故は原告ら主張のとおり、歩車道の区別ない、幅員五メートル余の住宅地の道路交差点において漫然時速約四〇キロで進入して危険防止の措置を怠つた被告松田の過失と、左方道路から直進してくる車両に対する万全の注視を欠き漫然右折をはじめた被告渡部の過失があいまつて第一事故車の斜疾走をまねき惹起したものであつて、特に原告らの受傷に対する因果関係においては、その過失割合は被告松田七、被告渡部三とすべきである。従つて被告松田、被告会社は運行供用者として被告渡部は不法行為者として原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
二、損害の発生
(一) 原告新井康子
1 傷害の内容
原告主張のとおり(第四の一の(二)の1の(1))認められる。
2 損害の数額。左の限度で認められる。
イ 付添費(被告松田支払済)一三七、九七〇円
原告は母鞆音の付添のため十月から十二月まで雇つた家政婦代を損害として請求しているが、一二月二一日退院時まで当初一九日間は二名、その後は一名の付添婦がつけられ、その看護費が支払われている以上、たとい母鞆音が愛情の発露として現実に重複して付添い、その間家事のため家政婦費を要したとしても本件傷害の程度では被告らに負担さすべき損害として計上することは相当性を欠き、認めることはできない。
ロ 治療費 五三八、六〇〇円
ハ 慰藉料 一、〇〇〇、〇〇〇円
受傷の部位程度のほか、入院約三ケ月を要し、八才の学童の身に三回の手術を要し、二学期、三学期学校を休まねばならなかつた治療経過、手術後腹部に約二〇センチの手術痕を残し、また左手指、手首の屈伸運動の障害ならびに腸閉塞の危険を残していることなどを考慮する時、右額が相当である。
なお家庭教師をつけたことは慰藉料の算定事情に考慮した。
(二) 原告玉置文子
1 傷害の内容
原告主張のとおり(第四の一の(二)の3の(1))
2 損害の数額
イ 付添費(被告松田支払済) 八二、三九〇円
入院八六日間のうち一一月三〇日までの六三日間分
ロ 治療費 二三六、〇八〇円
ハ 慰藉料 四〇〇、〇〇〇円
受傷の部位程度のほか入院三ケ月の経過のほか、左肩機能不全を残している点、鼻下部の瘢痕を考慮した。
(三) 原告敬三、鞆音、久の各請求について
本件傷害の程度では近親者(父、母、夫)の慰藉料請求権は認められない。また原告久の看護のための賃金減額分は原告文子に相当期間付添看護がつけられこれが看護料が被告松田から支払われているので本件事故による損害としての相当性の範囲外で、認められない。
三、結論
右原告康子、文子の認定損害額から被告松田の弁済(第三の三)を控除すると未済損害額は原告康子は金一、二三八、六〇〇円、原告文子は金三八六、〇八〇円となり、被告らは不真正連帯の関係において右金額にみえるまで支払の義務がある。
そうすると本訴請求は主文の限度で認容すべきである。訴訟費用につき民事訴訟法第九二条、第九三条、仮執行宣言につき同第一九六条を適用した。
(裁判官 舟本信光)